或る日のバス停

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何も無くなってしまった町に
人も待たないバス停だけが
私の忘れかけた想い出のように
秋風に吹かれていた

あの人はどこへ消えたのか
あのとき暮らしていた部屋にあった
秒針がやたらに煩い壁掛け時計は
いつどこで捨ててしまったのか

町は炎に包まれて
幸せを刻んだ物は焼け落ちて
いつか灰は海の上に吹かれて
私の存在などは
何億年の歴史の一粒にもならず
空気のように流浪するのだろう

通りを渡れば
駅の入口まで行くバスが来る
駅はバスの終点から
古い闇市のようなトタン張りの商店と
破れ提灯の下がる飲み屋とがひしめく
狭い路地の先にある

そんなごみごみとした喧騒などが
ほんの僅かの所にあることなど
この静かなバス停に立っていると
思いもよらないことである

私の消えた想い出は
ひょっとすると
どこか近くの町で拾われて
いつか初めてそこを通り過ぎたとき
再び蘇ったりするのかもしれない

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